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ファミコン探偵倶楽部シリーズ3作目「笑み男」の考察


最新作「笑み男」のネタバレが含まれます。

 

 

 

 

何ができなかったか、そして何ができたのか。

 

 この作品をプレイして、何もできなかった、駆け足だったと感じる人がいるかもしれない。というより、確実にいる。

 

 わたしは幸いすべて作品を追えた後では全く違う感想を抱いた側の人間ですが、そう感じた人がいることは理解できます。他でもないわたし自身が終章の文字を見た瞬間びっくりしたからです。その時点では「まだ何も分かっていない!」と思いましたし、SNSにも思わずそうポストしたくらいびっくりしました。
 だから、何もできなかった、駆け足で話が終わったと感じた人たちがなぜそう感じたかも、恐らく少し共感を伴う理解ができると思います。

 

 これは単純に言えば「何の事件を追っていると思っていたか」という問題でしょう。
 この作品の本編には非常に大きく分けて二つの事件が出て来ます。
 ひとつは作中の「現在」に起きた中学生の変死体が見つかった事件。
 もうひとつは作中の18年前の事件です。少女連続殺人ならびに橋爪学の放火殺人事件と、同時期に起きた二人の人物の失踪事件になります。

 

 この内、実際にはひとつ目の佐々木英介の事件についてはおそらく多くの人が答えに辿り着いていたと思われます。
 可哀想なあの男子中学生の死については周囲の証言から十分なヒントが得られていました。
 さらに「変死体」となったいきさつについても主人公(探偵くん)が偶然ですが明らかな物証を目にしています。
 佐々木英介の事件について本当に何もわからなかったという人はかなり少ないのではないでしょうか?
 つまり主人公ならびにプレイヤーは、佐々木英介事件の真相にはかなり近づいていて、何もできていないわけではなく駆け足でもないと言えます。
 こう言ってはなんですが、どんでん返しをクライマックスに持って来た過去2作よりはるかにしっかり、何が起き誰が何をしたかは推察できるようになっていると思います。

 

 それでもわたしは終章の字を見たときに思わず「まだ何もわかってない!」と叫んだわけです。

 

 何が何もわかっていなかったかと言えば、18年前の事件のほうです。
 18年前の連続殺人事件の犯人は誰なのか、失踪した二人の人物はどこへ行ったのか、そして森本めぐみや久瀬純子の前に現れた紙袋の男は何者なのか、この点については全くわかっていませんでした。
 これはひいてはタイトルロールである「笑み男」とは何者で、なぜ、何をしたのかという問いになります。

 

 「笑み男とは」という問いについては、終章を終えてなお本当にわからないままです。
 久瀬純子の告白によって18年前に泣いている少女たちの前に現れたのは都筑実らしきこと、その都筑実は顔面を損壊していること程度を認識するのがやっとです。
 空木が匂わせ、福山が怖い話ではなかったように感じるといった「入雲村に伝わる紙袋の話」さえ内容はわかりません。
 佐々木英介の事件はともかく、「笑み男」について追っている気分になっていたプレイヤーの中であの結末で納得する人がいたら、さしものわたしもむしろ驚きます。

 

 その後、プレイヤーが手を出せない状態で語られる都筑実の深層について評価が分かれると見なしたのは前述のとおりです。
 「そこを自分で解明したかった」という人がいることも当然だと思うし、理解はします。
 その上で「手を出せないつらさ」を味わわせるために、敢えて制作側はあの演出にしたというのがわたしの解釈です。

 

 では、プレイヤーないし主人公は結局、何もできなかったという結論になるでしょうか?
 18年前、あるいは30年前の事件を止められない絶望感だけがこの作品のすべてでしょうか?
 探偵として、真相は周囲の人からただ教えてもらうだけ、18年前の連続殺人犯に辿り着い時にはすでにその犯人さえ死んでいるという虚しさだけがゲームをやった結果残るのでしょうか?

 
 

ファミコン探偵倶楽部~笑み男~は、本当に何もできないだけの作品だったか?

 

 実は、この答えは本編(笑み男編)にあります。

 

 すべてクリアし終えた後に本編を振り返る、あるいは再度プレイすると違う物が見えてくる(人もいる)と思うのです。
 深層編・ミノル編は間違いなく何もできなかった物語です。「何もできない」ことを確実に意図して作られています。
 プレイヤーだけではありません。都筑実ないし都筑兄妹に関わった誰もがほとんど何もできず、ただ妹を笑わせ救いたかっただけの少年が恐怖の都市伝説、そして連続殺人犯となることを誰も止められなかった、そういう物語です。
 けれど本編、笑み男編は違います。
 佐々木英介の事件については、事件解決が多くの人を救いました。
 息子の自死を「出しもの」にされた佐々木くんのご家族の心情こそ想像を絶しますが、主人公が真相解明に導いたことで森本めぐみの元にはちゃんと遺書が届いたし、久瀬兄妹は再会を果たしました。
 最後の最後で都筑実の殺害を止めることはできませんでしたが、主人公の介入によってミノルの死に隠蔽工作などが為されることはなく、久瀬純子も久瀬誠もおそらくは正しく裁かれた上で、再度人生を正道でやり直すことができるようになったはずです。

 

 久瀬純子の部屋でたまたま南三中のネクタイらしきものを見かけ、手当たり次第に話を聞いた先で都筑実を名乗る男を知る工事作業員と出逢えたなどの偶然に助けられたとはいえ、その成果に辿り着いたのは驚くほど主人公の行動のおかげでず。
 主人公がよし江さんの協力も得て久瀬誠の足跡と、鎌田警部や轟夫妻の信頼を得て都筑実の足跡の双方を追っていたこと。探偵にできる範囲での地道でしかも広範囲な調査が、ミノルたちの潜んでいた廃村に主人公を導きました。
 また、主人公が神原に久瀬純子の不審な言動を伝えていたことが、最後の最後で久瀬誠の凶行を止めるのに役立ったのです。

 

 深層編が主人公にも空木探偵事務所の面々にも都筑兄妹を救えず何もできない物語だとするなら、本編は主人公たちの力で久瀬兄妹やその周囲の人々、さらには森山めぐみや滝口のような佐々木英介の周囲の人々を救えた物語になっています。
 約30年前、そして18年前を描いたミノル編が苦しければ苦しいものであるほど、作中の「現代」の物語は、主人公ひいてはプレイヤーが確かに誰かを救えたという希望の物語になっていると感じます。

 


21. Sep. 2024