menu琥珀の時(誘い後日譚)其の壱―≪御那己さま≫24
「貴方が『禍蛇』の・・」
綾女は当惑の表情で姫神の姿を見詰めていた。
――この幼い姿をしたモノが、あの『禍蛇』の主だというのか?
なるほど、姿形は幼くても、少女の纏(まと)う気は、神気と呼ばれる類のものである。
――ならば・・!
綾女の喉元がゴクリと鳴る。
覚悟はあったが、神への無意識の畏怖からか、綾女の背中に冷たい汗が流れた。
「富士の姫神。私は綾女。姫神に失礼を承知で、お尋ねしたき義があります。よろしいでしょうか?」
綾女が緊張の面持ちで、姫神に尋ねる。
――ハイ・・
「では――」
綾女は慎重に話を切り出した。
「ここ、富士裾野一帯に、姫神信仰が存在する事は、当初から聞き及んでおりました。富士裾野を統べる神・木花開耶姫。貴方ならばご存知のはず・・『禍蛇』は? ここな若竹の母親は? その行く末を教えて頂きたい」
綾女は姫神の姿を見上げつつ、ジッとその返答を待つ。
全てを見通しているはずの神――その者に向かって、わざとここで起こった出来事を綾女は尋ねていた。
それをせずにはいられない自分が、綾女の心の中に存在していたのである。
――若竹ノ母ノ魂ハ、黄泉路ニツキマシタ・・
姫神の声音に合わせるようにして、光は微妙に変化を見せる.
――ソシテ、『白萩』(=『禍蛇』の事)ハ、『緑青魂』トシテ、我ガ手中ニ存在シテイマス。
――ろくしょうこん?
――『緑青魂』トハ、杜辺神ノ核トナルモノ・・
姫神は汗衫の両の袂を胸の前で合わすと、その隙間から淡い緑色の光を放つ白い勾玉を取り出してみせる。
――この核サエ存在スレバ、杜辺神ハ再生シマス。
「では、『禍蛇』は元に戻るのですね・・」
どことなくホッとした様子で、綾女がポソリと言葉を吐く。
―――『白萩』ノ事ヲ気ニカケテクレルノデスカ?
少女の声音が、神本来の清冽なものから、温かみのこもったものへと変化していた。
――残念ナガラ、元ノ『白萩』ニ戻ス事ハ叶イマセン。一度消エテシマエバ、記憶ハ再生ガ難シイノデス。
「しかし、貴方は神なのでしょう? 神に不可能な事があるのですか!?」
本来なら、問い詰めたいくらいのところを、綾女はグッと堪えて尋ねる。
そもそも、何故今まで姫神は姿を現さなかったのか?
こんな事態を放置したままで・・
「聞くだけ無駄だ」
その時、綾女の後方から声がかかった。
姫神の手中から勾玉がフッと消える。
「左近・・」
綾女が声のした方を振り返った。
「かつて神が俺達に何かをしてくれた事があったか?」
険しい表情をした左近が、ゆっくりと綾女の方へと近づいてきて、その左側でピタリと歩を止める。
「神とは、そんな存在なのだ」
射るような眼差しで姫神を見上げる左近の様子を一目見て、綾女は全身がゾクリと粟立つのを感じた。
鬼気迫る面差し。
自分達が対峙している相手は神という名を頂く者、それも創始の時代からこの地を統べる富士の姫神であるというのに、その者に対し左近は敵意を露にしていた。
その放つ気は、怒りなどという表現では生ぬるい。
憎悪――それさえも通り越して、左近の周囲には殺気が満ちていた。
「大体、今頃のこのこ出てきて、お前達神とは一体何様のつもりだ? 『禍蛇』の主を名乗るのなら、主らしい事をしたらどうなんだ!」
左近は、神に対して挑戦とも言える態度を取った。
「左近、止めろ!」
さすがに綾女も左近の様子を危ぶみ、その名を読んで止めさせようとした。
これだけ激する左近を見るのは、長い付き合いの中で綾女は初めての事であったからである。
しかし、一度堰を切って溢れ出した左近の感情は、水と同様溢れるばかりで、堰き止める事はできなかった。
綾女の制止の言葉を無視して、左近の罵声は直も続いた。
「神の御力というのは何のためにあるのだ? ただの飾りか? それともお前達の気紛れで揮うものなのか? 俺達が必死で戦っている時に傍観を決め込み・・人間を馬鹿にするにも程がある!」
「左近! いい加減にしないか!」
綾女の制止の声が大きくなる。
綾女は、いつもと違う左近の様子に不安を感じた。
左近が放つ言葉は大抵が辛口で、他人に反感を持たれる事は往々にしてある。
だが、左近が他人に対して発する言葉の多くは、自問自答、自戒――という意味合いが強く、悪意はほとんど無かった。
だが、今の左近の言葉には、明らかに毒が含まれている。
いつも冷静な左近が、これほどまでに感情を剥き出しにする――そこには、綾女の知らない左近の一面が現れていた。
以前これとよく似た反応を、左近はした事があった。
宿命という言葉に対する激しい拒否反応――
あの時左近は不意の口づけで綾女に動揺を与え、綾女が鳳来洞から飛び出さざるを得ない状況を故意に作った。
そうする事で左近は自分の心から眼を背け、更に綾女から己の心を覆い隠したのである。
だから、綾女は左近の心の『闇』の部分を、まだ知らなかったりする。
そんな左近に対して、
「サクヤさまを悪く言うな!」
もう一人、非難の声を上げた者がいた――若竹である。
左近は若竹に向かって怒鳴り返した。
「お前は理不尽に思わぬのか? お前達の事にしろ、お前の母親の事にしろ、この神を名乗る者が何をしてくれた!」
「サクヤさまだけだったんだ!」
若竹も負けず劣らずの勢いで叫んだ。
「親より先に死んだ俺達に、三途の川は渡れやしない。かといって、そのまま里に止まれば、いつか悪しき存在になる。そんな俺達にサクヤさまは『力』を分けてくださった・・そりゃ、俺達は、ここから出る事は許されていない。それがサクヤさまとの約束だから・・でも・・それでも、俺達は嬉しかった。行き場を無くして・・途方に暮れて・・そんな気持ちを、誰が気付いてくれる!? 誰が拾ってくれる!?」
――若竹、オ止メナサイ・・
姫神の柔らかな思念が、直も感情のままに言葉を続けようとした若竹を中途で遮る。
「サクヤさま・・?」
ややもすると、零れてしまいそうな涙を堪えながら、若竹が姫神の方を振り返った。
ヒュ・・ゥ ルル
一陣の風が若竹の周囲を一巡し、姫神の次の言葉を待つかのように、姫神のすぐ傍で小さく渦を巻く。
――ソレ以上ノ言葉ハ、貴方自身ヲ辛クスルダケデス。ソレハ、私ノ望ムトコロデハアリマセン。ソレニ、かの者ノ問ウノハ、私トイウ存在・・ソレニ対シテ、私カラ答エガ返ラヌ限リ、かの者ノ中デ逆巻く感情ハ到底収マラナイデショウ・・
「でも・・」
当の姫神から言われては、若竹も黙る他仕方がない。
シャ――――ン・・
再び神楽鈴の音が鳴り響いた。
空間に清冽な神気が蘇る。
白い汗衫姿の少女が、神と言う名の絶対的な存在を影忍達に見せつけていた。
姫神本来の神としての思念が、奔流となって直接影忍達の心に流れ込む。
――左近・・貴方ノ言ウ理不尽トハ、人ガ人ニ対シテ使ウ言葉デス。森羅万象ヲ等シイ存在トシテ扱ウ我等ニ、貴方ノ言イ分ハ、人ノ驕リ、甘エ、勝手トシカ認メラレマセン。我等ハ悠久ノ時ノ中ニ存在シ、人ハ限ラレタ生ノ中ニ存在シテイマス。ソノ我等ニ、人ト同ジ視野デ答エヲ求メルノハ可笑シクハナイデスカ?
「だから、問う事すら可笑しいと? そうやってお前達は理由も告げずに、俺達を見下げるだけなのか? 俺はそんな答えで納得する程、謙虚にはできておらぬ!」
左近は皮肉を込めて姫神に言う。
――デハ、我等ガ人ト立場ヲ同ジクシ、人界ニ降リ立ッテイイトデモ? ソレコソ愚問トイウモノ・・
「何ッ!?」
――我等ハ人ノ世デ言ウ『神代』ニ生キルものデス。コノ身ニハ、ソノ頃ノ荒御魂ガ宿リ、ソノ心ニ従ッテ、我等ハ『ちから』ヲ揮イマス。我等ニ躊躇ト言ウモノハアリマセン。ソシテ、人ニトッテ我等ノ『魂』モ『ちから』モ、脅威デシカナイ・・ソレ故、我等ハ、人ノ世ニ多クヲ関与セヌト、遠イ昔ニ誓ッテイマス。
「そこまで言うのなら、何故人の世に定めというものを持ち込む? 俺達が足掻き苦しむ姿を、ただ黙して見ているのが神だと言うのか!?」
――貴方ガそれヲ、私(神)ニ問ウノデスカ?
姫神の思念に少しばかりの憐憫が混じる。
――ソノ問イカケハ、貴方ノ生キ方ソノモノヲ、根本カラ否定スル事ニナリマスヨ?
「何・・だと!?」
静かな、しかし、含みのある姫神の言葉。
それを耳にした途端、左近の頬がピクリと痙攣した。
幸せからはほど遠く、かといって不幸だと嘆くのは自尊心が許さない、そんな左近の記憶を、姫神は一瞬のうちに読み取ったのである。
「俺は・・」
左近は何かを言いかけて――やや掠れた声で。
ギリリと奥歯を噛み締めると――口惜しげに。
圧倒的な存在感を主張する姫神を睨み上げた。
「・・・もう・・いい」
やっとそれだけを吐き捨てるように左近は答えとして返す。
姫神が影忍達に、いや・・この地に存在する、生きとし生けるモノ達全てに向けて語り出した。
――定メ――ソレヲ唯一知ル別天神(ことあまつかみ)*ノ意志ハ、我等地神ニハ測リカネマス。シカシ、定メヲ如何受ケ止メ、如何生キルカハ、ソノものノ裁量ニ委ネラレテイルハズデス。ソノ後、運命ガ如何動キ、何処ヘ辿リ着クカマデハ、我等(この場合、人界に接する機会の多い、神格の低い地神の事を指している)ニモ分カリマセン。神トイエドモ、万能デハ無イノデス。我等ニデキル事ト言エバ、『初メ』ト『終リ』ヲ定メルクライノ事・・生キもの達ノ、生キ様ニマデ、責任ハ持テズ、待ツモノデモナイデショウ。
*天地開闢(かいびゃく)の初めに高天原(たかまがはら)に現われたと「古事記」でいう、天つ神のうちでも別格の神。天御中主神(あまのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、神産巣日神(かみむすひのかみ)、可美葦牙彦舅神(うましあしかびひこじのかみ)、天常立神(あまのとこたちのかみ)の五柱の神の総称。
特に造化の三神(さんしん)と呼ばれる、天御中主神(あまのみなかぬしのかみ)・高皇産霊神(たかみむすひのかみ)・神皇産霊神(かみむすひのかみ)の三神は(「古事記‐序」にある「乾坤初分参神作二造化之首一」から)日本の神道思想上で万物生成化育の根元神とする三神である。
ちなみに日本の神話では、天上の神の世である天神七代に続き、地上の神の世である地神五代、皇統へと時代は移っていく。
「では、人がどう生きようと、お前達は預かり知らぬと言うのか?」
苦虫を噛み潰したような表情で左近が問う。
――既ニコノ世ハ、我等ノ手カラ人ノ手ヘト移ッテイマス。ソコニ我等ガ不用意ニ介入スレバ、必ズヤ何ラカノ歪ミガ生ジマショウ。 ・・私ガ『禍蛇』トナッタ『白萩』ト接触ヲ持タナカッタノモ、ヒトエニ人ノ思念ニヨッテ支配サレテイタカラデス。
「はッ! 問うだけ無駄だったと言うわけか・・」
やや拍子抜けたように、そのくせ何処かホッとした様子で左近は言葉を吐く。
姫神はそんな左近の心中を知ってか、微かに苦笑する様子を見せて、言葉を続けた。
――デモ、コレダケハ覚エテオイテクダサイ。人ハ、人外ノ者ニハ持チ得ヌ強イ輝キヲ、生マレナガラ魂ノ中ニ持ッテイマス。短イ、限ラレタ生ダカラコソ、懸命ニ生キヨウトスル、ソノ魂ノ輝キニ、我等ハ魅セラレ、無性ニ惹カレル・・ソレハ表現ノ仕方ハ違エド、神モ妖魔モ同ジ立場ニイマス。ソシテ、ソノ輝キコソガ、我達ノ心ヲ、突キ動カス事ニモナル――それヲ人ハ奇跡ト呼ンデイマス。デモ、奇跡ハ、我等ガ起コスモノデハアリマセン。人ガ我等ニ起コサセルモノナノデス。挑ム姿勢ニコソ、人ノアリヨウガ見エル――違イマスカ?
左近と綾女は黙って、姫神の話を聞いていた。
さっきまで存在していた、殺気、苛立ち、懐疑などの気配が、嘘のようにすぅと消え失せ、二人はいつもの影忍の顔に戻っていた。
今の姫神の話には、自分達が漠然と感じている不安や疑問に対する答えは、何一つ示されてはいなかったが、自分達がこれまで歩んできた生き様を、神が否定した形跡も無かった。
ならば自分達はこれまで通り生きていくしかないのだと、しかも、自分達の生は他に委ねるべきものではないのだと、深く二人は心に刻みつける。
「付き合いもここまでだ・・」
左近は低く呟くと、手にしていた妖刀を右掌に収め、姫神の方に向き直った。
「用は済んだのだ。サッサと此処から出してもらおうか」
身も蓋の無い言い方であった。
綾女は内心で苦笑する。
が、そこにいつもの左近の姿を見て、ホッと安堵もしていた。
キュ・・ィ
その時、杜辺神が小さく鳴き、鼻先を姫神の方にすり寄せてきた。
――時満チマシタカ・・
姫神は従者の囁きに小さく頷くと、影忍の方に体の向きを戻した。
――デハ、此処カラハ、私ニ代ワッテ、子供達ニ案内シテモライマス。
――え?
綾女が怪訝顔になる。
――私ハコノ空間カラ動ケマセン。
姫神からその答えが返った。
――此処ニアルノハ、光ニ移シタ私ノ意識・・姿見ニ映ッタ姿ダトデモ思ッテクダサイ。本来ノ私ハ、コノ地ノ奥底デ、『ちから』ト共ニ眠リニツイテイマス。デスカラ、今ノ私ハ、貴方方ノヨウナ『ちから』ニ直接意識ヲ繋ゲルカ、杜辺神ニ意識ヲ運ンデモライ、別空間ニテ相手ト対峙スルカデモシナイト、話ス事スラ憚(はばか)ラレルノデス。
「何故!?」
――それにツイテハ、オ答エデキマセン。
暫しの沈黙が流れた。
綾女は姫神に、ソノ『何故?』を更に繰り返してみたかったが、ソノ答えは到底望めない事ははっきりと感じたられたので、それ以上の追求は止めておいた。
――それよりも・・
綾女の視線はまだ姫神の方に残る。
――犬神達ノ事デスネ?
綾女の視線から、綾女が何を問いたいのかを、姫神はすぐに介した。
――アノもの達ハ命ヲ賭シテ、呪ヲ成ソウトシテイマシタ。アト数間止メルノガ遅ケレバ、今頃アノもの達ノ魂ハ消滅シテイタデショウ。
それを聞いた綾女の顔色が、サッと蒼ざめる。
「そんなッ! では、彼等は!?」
――心配ハイリマセン。今ハ、私ノ『ちから』ヲ受けテ、ソレゾレノ場所デ、癒シニ入ッテイマス。程無ク『ちから』モ回復ヲ見ルデショウ。
それを聞き綾女は、
「良かった・・」
心底ホッとしたように言葉を吐くと、一気に脱力した。
そして、改めて姫神の方に向き直ると、その場に片膝をつき、神妙な面持ちで姫神の姿を仰いだ。
「富士の姫神。我等神とは無縁の世界に生きる者なれば、神に対し多少の懐疑がございました。それ故、貴方に対して取った数々の無礼、平にご容赦頂きたく存じます。犬神達は我等が大切な同胞・・今ではかけがえの無い存在です。・・その命救ってくださり、感謝を述べるにも言葉が見つかりません」
――ソレニハ及ビマセン。此度ハ、私達ノ方ガ貴方方ヲ巻キ込ミマシタ。ソノタメニ、あのモノ達ガ消エテシマッタノデハ、本末転倒トイウ事ニナリショウ。タダ気ニナルノハ、今後ノ彼等ノ扱イニツイテ・・彼等ハ純粋ニ貴方方ノ事ヲ慕ッテイマス。ソレコソ、自分達ノ命ヲ省ミナクナル程ニ・・妖カシニトッテ、『ちから』トハ、即『命』ヲ意味シマス。ソレヲ使イ切ルト言ウ事ハ、妖カシニトッテノ『死』、『消滅』ヘト繋ガリマス。ドウカ、コレカラハ、ソレヲオ忘レナキヨウ。彼等ノ為ニモ・・貴方方ノ為ニモ・・オ願イシマス。
「はい」
綾女は素直に姫神の忠告に頷いた。
そんな二人のやり取りを、左近は最後まで黙って聞いていた。
口を挟まなかった所を見ると、左近なりに姫神の言葉を受け止めたという事なのだろう。
だからと言って、綾女のように、左近が殊勝な態度を取るという事は最後までなかった。
なにせなかなか気難しい男である。
これでも譲歩した・・という事なのかもしれない。
空間から荘厳な光が、次第に薄れていこうとしていた。
――モウ、オ会イスル事モ無イデショウガ・・
その中で姫神の御姿も淡い光に包まれていく。
――愛シイ魂ヲ持ツ方々・・ドウカ貴方方ノ思イガ、時ノ果マデ届キマスヨウ・・
そして、その言葉を最後に、姫神は光の中へと、杜辺神と共に姿を溶け込ませていった。
キュオオオオ――ン・・
霧のかかったような淡い光の中を、杜辺神の声が次第に遠ざかっていく。
「こっちだ」
若竹が影忍達の方を振り返り、続いて先に立って歩き始めた。
そのすぐ後に続きながら、
――若竹・・
綾女はこの幽鬼の心中を思った。
若竹の眼には既に涙の跡は無かった。
代わりに、
流されまい・・
押し潰されまい・・
――とする強い意志を秘めた眼差しが、ずっと前方を見詰めていた。生きる――
その矛盾に満ちた現実を影忍達は知っている。
その辛さも、その素晴らしさも、必死に生きる中で二人は学んだ。
だからこそ、この強い光を眼差しに宿す少年の願いに、影忍達は応じたのかもしれなかった。