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2006花見オフin安土 妄想の花、咲かせてみました
 
 
 
 

「おい今度の土曜、出かけられるか?」
「? いいけど」
唐突にかかってきた電話。唐突な質問。
確かこの人、いま仕事で西の方に行ってるんじゃなかったっけ?
何で急にこんな電話かけてきたのかしら?
「交通費他諸々出すから、京都まで来てくれ」
「……はい?」
「到着時間見当ついたら教えてくれ。京都駅まで迎えに行く」
「ちょっと!?」
「あ、時間だ。じゃあな」
ガチャリ ツーツーツー
通話終了?
 
 

……正直納得できないものがあったけれど、交通費他全額あっち負担という言葉に釣られて、私は週末、新幹線で一路京都に向かった。
京都駅にて車で駅まで迎えに来ていた彼と合流。
そしてそのままドライブ決行。行き先は不明。
「ねえ、どこまで行くの?」
途中、彼に目的地を問いただす。
けれど、返ってきたのは――
「んー まあ着いてからのお楽しみ」
あいまいな返事だけだった。
 
 

そんなやり取りの後、辿り着いたのは長閑な田園地帯の中にある駐車用の空き地。
「ここは?」
「あれ見てみろ」
「?」
彼が指差した方を見ると、そこには石碑が一基。
彫られている文字は『安土城址』
「ここって……」
「来たこと、ないだろう。今は」
「そりゃないけれど」
「今はな、桜の名所だそうだ」
「……だからって来る? 悪趣味じゃない?」
いわゆる前世でのこととはいえ、仮にも自分が死んだところにわざわざ来る人がどこにいるっていうの?
「今なら単に思い出話にできるだろう? お前もいるんだし。ホラ行くぞ」
私が何を言っても聞く耳ナッシングの彼はどこまでもマイペース。
差し出された手を、私はため息と共にとった。
 
 

四百数十年もたてば、あっちもこっちも記憶とは違う。
何よりも私自身のHPを初めとする各種パラメーターが昔とは大きく違っている。
我ながら良くまぁ昔、こんな場所を駆けずり回ったもんだと思いつつ、明日の筋肉痛を想像しながら上を目指して歩いていくと、雑木林に囲まれ、剥き出しの礎石が点在する天守跡に辿り着いた。
幸いというべきか、私たち以外に人はいない。
私はゆっくりと中心に歩を進めた。
ぐるりと周囲を見回す。
途端、脳裏に当時の記憶がめまぐるしく点滅。
呑み込まれそうになる。
あの時の自分が感じた鋭い痛み、うねる感情の渦――
「………っ」
押し流される寸前、深呼吸をして『今』に戻る。
「意外と狭い場所だったんだね」
「そうだな」
「こんな小さな場所で本当にあんなこと、あったんだ」
「そうだな」
「あなたや、龍馬殿がここで死んだ」
「ああ」
「私だけが生き残った。……私だけが!」
再び揺れ動く感情。
ここであった出来事は遥か昔の事だと判っているのに止まらない。
過去の自分に引きずられる!
「――……」
彼が、背後から私をそっと抱きしめた。
「昔のことだ」
一筋の涙が私の頬を滑り落ちる。
「今日のこれは墓参り?」
彼の意図がわからない。
何を考えて私をここへ連れてきたの?
ぐるぐると回る私の思いは、けれど彼の次の一言であっさりと破られた。
「いーや 報告と自慢」
「……はい?」
「昔、俺が最後にお前と話をしたのってどの変だったっけ」
「え…っと、多分あの辺り?」
確かその後、彼のことはこの場所のどこかに埋葬したはずだけれど、その場所までは思い出せない。と、いうより思い出したくないというのが本音。
彼は、私が言った場所に移動すると私の肩を抱き寄せ、風に、大地に、この場に在るすべてのものに宣言するような口調で囁いた。
「昔はともかく、今は俺はこいつと一緒にいる。今だけじゃない。これからも一緒にいてベタベタするからな。どーだ 羨ましかろ、昔の俺」
「……………」
私、つっこむべき?あきれるべき?
「俺はこれが言いたかっただけだよ。お前がここまで「昔」に引き摺られたのは計算外だったがな。 ま、そういうことだ」
「拒否権は?」
「無いな。んなもん発動させたら今度は鳳来洞へ連れて行くぞ」
それは御免だわ。
まぁ 私も拒否権云々は本気じゃないけれど。
「わかったわ。付き合ってあげる」
私はとびっきりの笑顔で、彼の腕に手を絡めた。
 
 

行きは上り坂の攻略に夢中で気がつかなかったけれど、帰り道すこし視線をめぐらせれば、そこかしこに花開いている桜樹。
ここが桜の名所というのは本当だったようだ。
昔は月の下で2人この地にいたけれど、いま私たちがいるのは明るく輝く太陽の下。
手をつないで、私たちは安土城址を後にした。
 
 
 
 
 
 
 
 

(後日談)
「あのね。もう、あんな風にいきなりな事しないでよね。あの後、筋肉痛で大変だったんだから」
「そんなこと言うがな。あの日、仁王門の石段で5人連れのグループ見ただろ?あのメンバーの中で階段ダッシュかましていた女がいたぞ。どーみても社会人の」
「そんなもの好きと一緒にしないで。第一その人だって筋肉痛になっているハズよ」
「あー かもなぁ……」
 

………うん。なったよ(遠い目)……
 
 

劇終
 
 



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