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11111リクエスト小説
「おつかれさま!映画・妖刀伝完成!!」
「『劇場版、戦国奇譚妖刀伝』の完成を祝して、乾杯!」
「カンパーイ!」
わっと言う声と共にグラスが方々で掲げられた。ここは都内某所のレストラン。現在は貸切で、とある映画の打ち上げが行われている。
少しばかり堅苦しい挨拶も終わり、場の雰囲気は一気に打ち解けたものになった。
立食形式の会場内で、人々は自分の気に入っている仲間を探して、徐々に個別の人の輪を作っていった。
一画では、この映画で中心となった若手の俳優が集まっているようだ。
「主役抜きで乾杯なんかしちゃって、良かったのかしら?」
グラスの中身を一息で空にした茶髪の女性が言った。佳代という名の年若い人妻役を演じた彼女は、落ち着いたおとなしやかな風情が昨今では「癒し系」と人気上昇中の美人女優である。今回の作品では、オールヌードを披露するわ、得体の知れないモノを背中に背負うわと、何かと大変だったようだが少なくとも本人の中で、それはもう過去の話であるようだ。
この女優と非常に良く似た面立ちの少女が続いて口を開いた。
彼女は、わざわざこの映画のためにオーディションで選ばれた新人だが、今ではずいぶんと業界人らしくなってきた。
「ほんと、どうしたのかな? 遅れてくるなんてめずらしーですよね」
この少女は未成年であるため、手にしているのは一応、ジュースの入ったコップだった。
他、この一団の中でジュースないしウーロン茶を手にしているのは黒髪の少年二人と、・・・・茶髪の青年のようだ。
前者二人は未成年だからだが、後者は「車で来てしまったから」がアルコールお断りの理由だった。しかし、この青年俳優が見かけ(ならびに役柄)とは裏腹に、酒と女性を大の苦手としていることを、知っている者は知っている。
結局、ここの集まりの中でアルコールを手にしているのは前述の女優ともう一人、ゴツ──ではなかった、堂々とした体格の男優だ。龍馬という土佐弁を使う役どころに、すべての撮影を通じて苦しみつづけた彼は、見かけはともかく実年齢は決して上の方ではないので、若手俳優としても間違いではないだろう。
そして、女優の言ったとおり主役の姿は見えない。
この一団の中だけでなく、会場中見渡しても見つからない。
この若手の集まり以外では、もう少し年長の俳優、ならびに制作関係者が集まっている一画もある。
しかし、この一画には特殊メイクをされていたメンバーが多く、誰が誰だかわからないため筆者としてはコメントを限りなく避けたい気分である。よって、割愛。
盆栽と昆布茶をこよなく愛する、主人公の兄役をやった役者はこちらの輪の中で和尚相手に趣味の話に花を咲かせているようだ、とだけは述べておこう。
視点を元の一角に戻すとしよう。
その小さな体のどこに入るのかと思うような量を食べている少女が思い出したように口を開いた。
「そういえば、あのシーンカットされてましたね」
その言葉に人妻役の女優が小首を傾げてから、納得したように頷いた。
こちらの彼女は、既にどれだけグラスを空けたかわからない──ボトル単位で換算すべきであろう。
「ああ、あのシーンね・・・・私は話を聞いただけだけど。
勿体無かったわよね、せっかく撮ったのに」
その言葉に少年の片方、白い肌と真っ黒な髪の対象が印象的な美少年が思い切り困惑した表情を見せた。
「その話は・・・・・・しないで下さい」
「どのシーンですか?」
もう一人の、よく日に焼けた肌の色をもつ少年が尋ねると、残る男二人が多分に同情を交えた口調で異口同音に語った。
「聞かないでおいてやれ・・・・」
しかし、女性陣はこの話題をやめるつもりがないらしい。
「私、あのシーンスクリーンで見たかったのになー、残念」
「蘭丸くんも頑張ったのにねえ・・・・」
皿を片手に少女が揶揄するように語れば、年上の彼女は新たなグラスを手にして苦笑する。
「本当に、本当にやめて下さいよ・・・・」
その言葉を掛けられた美少年は、何か思い出したのか頬を少し赤らめると、弱々しく言った。
「僕はもう、ああいうことは二度としたくないです」
この中では最年長の男が、豪快に笑いながら少年の頭をかき回した。
「無理もないよなぁ」
劇中では仇同志もいいところの美少年と大男だったが、現実での仲は結構いいようだ。
「ええっ、オレだけ知らないんですか? どんなカットだったんです?」
もう一人の少年が黙々とウーロン茶を飲む茶髪の男に問い掛けた。
この少年は作中の役柄同様、この男に良く懐いているようだ。所属事務所が同じと言うこともあってか、『先輩』などと呼んで慕っている。
「いや・・・・まあ、な。信長と蘭丸のちょっとしたカットがあったんだよ」
今ひとつ歯切れの悪い調子で答えた男の目には、少なからぬ憐憫の情が浮かんでいた。
「いちばん『殿とお小姓』らしいシーンじゃないかと思ってたのに。見てみたかったのよ、残念だわ」
「ねえっ、本当にどんなシーンだったんですか!?」
余程気になるらしく、何も知らない少年が叫んだところに別の声が重なった。「遅いぞ主役ー!」
全員が視線を店の入り口に向けると、長身の女性が軽く手を上げて笑っていた。
意志の強さは感じられるもののよく見れば繊細な目鼻立ちちが美しい女性だった。
美少女、と呼んでもいいくらいの歳でもある。
しかしながら、目元と口元に浮かんでいる、やや不敵な表情といい、年の頃はようやく二十歳(はたち)といったところだが、妙な貫禄があるのが印象的だ。
何かでかい紙袋を肩から下げているのも印象的である。というか、浮いている。
口の動きから周囲に”スミマセン”、と言っているのが見て取れる、そんな彼女を龍馬を演じた男が、幾分酒の回った調子で手招きした。
「なんだ、ずいぶん辛気臭い顔してるのがいるね。何かあったのかな?」
若手俳優の輪の中に入ると主役は、凛々しい、竹を割ったような、あるいは『男前(姉御肌というレベルではない)』と評される性格そのままの口調でまず、そう尋ねた。
「例の、切られちゃったシーンの話をしてたのよ」
人妻役の彼女の言葉に、得心がいったという顔で主役は頷いた。
こうなると納得がいかないのは、何も知らない少年だけになる。
「ねえ、ですから一体どんなシーンだったんですか?」
「いやあ・・・・まあ、ねえ」
黒い髪の美女はニヤニヤ、としか形容できない笑みを浮べた。
これほどの美女なのだから、どうせならニッコリや、クスクスくらいの笑い方をしてくれ・・・・と、男性陣のほとんどは悲しまずにいられない瞬間である。
しかし、そんな願望を黙殺して黒髪の女優は話の中心にいる少年を見やった。
「話してもいい?」
「勘弁してくださいよ・・・・」
少年はさらに弱々しい様子で首を振った。彼はほとんど涙目に近い。よっぽど嫌な記憶なのだろう。
それじゃ仕方ない、と肩をすくめて女は笑った。
「本人がこれだけ嫌がってるから、いまはその話はナシね」
「ま、それがいいだろうなあ・・・・」
先ほどの少年とは別の理由で顔を赤くしている最年長の男が言った。そろそろ、ろれつが怪しくなってきている。
横に立つ茶の髪の男が、さりげなく傍のテーブルに置かれていたアルコール類を酒豪の女優の方に回した。女優は無言でそれを引き受ける。この年長の友人が酒に酔うと泣き上戸になることを、これまでの経験で彼と彼女はよく知っていた。もとい、痛感していた。
春巻を突いていた少女は皿の上のそれを空にしたところで、首を傾げて尋ねた。
「ところで、その紙袋は何ですかー?」
「そうそう、これのせいで遅れちゃったんだよね」
主役は肩から肘に袋の紐をずらすと、その中身を取り出した。
「じゃん♪」
音符つきで披露されたのは、赤地の服だった。何のことはない、劇中で使われた衣装である。
「衣装サンが他の仕事に行ってて、捕まえるまで時間かかっちゃってね」
「それで何をする気?」
自分に回ってきたアルコール類を始めと変わらないペースで空けていた女優が、驚いた調子で尋ねた。
「ちょっと気になることがあってさ」
「なに?」
「『綾之介のカッコウは本当に男装だったのか』。気にならなかった?」
ハイハイ!と元気良く『陣平クン』が手を挙げる。
「オレは気になりました。てゆーか、あれはおかしいでしょう」
再び女はニヤリと笑った。
「だろ? それで、いいことを思いついてね。
要は私が着ていたから男装なのかそうじゃないのかわからないわけで、男が着てみればいいと思ったわけ」
その場にいた男性陣は、思わず食べかけだったものを喉に詰まらせた。
しかし、主役は動じない。
「古今東西、男が女の服を着るのは、女が男の服を着るより大抵おかしい。男が着てみておかしくなければ、まあ、少なくとも女の格好じゃないはずだ。ってことは、男装って言ってもいいんじゃないかと思ってさ。どう?」
主役の言葉に、女性陣が目を輝かせる。
「それ、いい案だわ!!」
「やりましょう、やりましょうっ!」
この発案に顔色を変えたのは、中でも少年二人だった。
女性にしては背の高い主役だが、それでもここの男の年長組二人に彼女の衣装を着るのは無理だ。
必然的に、まだ成長途中の少年のどちらかにお役目が回って来ることは明白である。
しかし、その当事者二人を完全に無視して、衣装を片手に黒髪の女優は同性の友人たちに語りかけた。
「やっぱり、こういう時は女性の意見を参考にしないとね。
ここにいる美少年二人のどっちに着せたい?」
「やっぱり、蘭丸クンかしら?」
「でも女装って似合わない人にやらせるのが一つの醍醐味ですよねー」
可愛い顔で、さらっと本質をのぞかせるようなことを語った少女は、ふと思い立ったようにとなりの少年──『陣平クン』の方である、の服をクイクイと引っ張った。
「このカッコしてくれたら、さっき知りたがってた話、教えてあげますよ?」
ピシッと空気が凍りついた。これが劇中であれば、殺気の出所である白肌の少年の目からは殺人光線が放たれていたことだろう。
しかし、女優陣は動じない。名案!などと言いながら手を叩いている。
ついでに言えば、好奇心に駆られる少年も止まらなかった。
「・・・・そのカッコウ、ちゃんとした男装だとしたらオレが着てもおかしいとは限りませんよね?」
──マジで悩んでいるようである。
先ほど『絶対あれは男装じゃない気がする』というような趣旨の発言をしていたはずなのだが、もはやそれは頭にないらしい。
「オレ、やります!」
数秒間の思案の後、決断の男・陣平クンがそう叫んだ瞬間だった。
白肌の美少年は主役の腕から赤い衣装と紙袋を無言でもぎとると駆け出した。
「あっ、逃げた!」
少女が叫んだが、主役は笑って首を振った。
「いや、化粧室の方に向かったからな。自分が着てくるつもりだろう」
「そこまでやるか・・・・?」
茶髪の青年が呆れたように呟いた。
「まあ、あいつにとってはよっぽど耐え難かったんだろうなぁ」
こちらはいつ泣きモードに入ってもおかしくなさそうなほど酒精の回った調子で、立派な体格の男がフラフラしながら言う。
可能な限りこの酔っ払いに話をさせるべきではないと、ワイン片手の女優は判断した。
「私も一つ聞きたいことがあったのを思い出したわ。
あの、祠のシーンあるじゃない? あそこ、すごくNGが多かったってほんと?
キスシーンばっかり、やーたーら撮り直したって聞いたけど」
今の話の当事者の片方である準主役(一応)の青年がビクウッと強張り、主役は呆れたように溜息をついた。
「そうなんだよなー」
女は下げていた手を腰に当てて、片足に重心をかけた。ポーズはとても様になっているのだが、なぜか『威風堂々』とでも形容したくなるのが心もち悲しいところであろうか。
「普段はあんまりNGなんて出さないくせに、あの時に限ってこいつが、セリフ噛むわ、いきなり笑い出すわ・・・・。しかも、やっと上手く行ったかと思ったら、今度は監督が駄目だって言うし」
「へー」
酔っ払い一人を除いて、その場の全員が青年に白い目を向けた。男は何食わぬ顔でウーロン茶を飲んでいるが、背中には汗が滝を作っていることだろう。
さすがに無言でいることに厳しいものを感じたのか、青年が口を開いた。
「俺は、ああいうシーンは苦手なんだよ」
知らない訳じゃないだろうと、この話を振った女優に向かって言うと、彼女からは一言「大嘘」という返事が返ってきた。・・・・これが、この癒し系女優の正体であるようだ。
「あなたはああいうシーンが『苦手』なんじゃなくて『嫌い』なんでしょ?
しかも、嫌いなシーンは何が何でも一発で決めて、二度とはやらずに済ますくせに」
旧知の仲という言葉を痛感しながら、男はなおも反論を試みた。そうでないと、周囲の視線が痛すぎるのだろう。不憫なことだ。
「言っておくが、半分以上こっちの責任だぞ」
指をさされた主役は大いに不満そうである。
「何で私の?」
「普段はこういう人格のくせに、いきなりあんな可愛らしい反応されたら驚くに決まってる。フィルム、見ただろう?」
「うっ、それは確かに」
思わず本音を洩らしてしまった少年を、主役がギロリと睨んだ。大した迫力である。もっとも、口に出さなかったというだけで、この場にいた全員が少年と同じことを思っていたのだが・・・・。
いずれにしても、今度は少年が話題を変える必要性に迫られたようだ。
「そ、そういえば、なかなか戻ってきませんねー。やっぱり逃げ出したんだったりして・・・・はははは」
ずいぶんと苦しい話の展開だったのだが、主役はちょっと考え込んだようだった。
「逃げてはいないだろうけど、着方がわからないってことはあるかもしれないね。ちょっと行ってくるか」
少年がほっと息をつく。が・・・・。
「付き合え」
ポン、とその黒髪の美女に肩を叩かれて少年は硬直した。
「えっ、でも・・・・」
「私が男性用のトイレの中を覗くわけには行かないものね。
付き合え」
表情だけはニッコリと──本当にニッコリと微笑む女優に少年は極めて物騒なものを感じたが、それだけに彼はこの命令を断れなかった。「やれやれ・・・・」
準主役が小さく苦笑した。内心では自分から話題が逸れてほっとしているのだろう。
もっとも、そんなことを許すほど、ここに残った女性陣は甘くなかったが。
「で、さっきの話の続きですけど、NGがやったら多かったって理由って本当にそれだけなんですかー?」
無邪気を装った少女の問いかけに、男は飲みかけの茶を吹き出しそうになった。・・・・そういえば、さっきからこの男ウーロン茶しか飲んでないようだが、そのうち胃を痛めないかいささか心配だ。
一方、肝臓の具合のほどを是非とも尋ねたくなる栗色の髪の美女が、少女の話に乗った。
「彼女って、さっぱりした性格で良くも悪くもあんまり女を感じさせないじゃない? ある意味、あなたにとっては理想のタイプって気がするのよね」
「うんうん。そうですよね」
「監督まで、上手くいったはずのシーンでダメ出ししたって言ってたわよねえ。・・・・買収工作でもしたの?」
「誤解だ」
「理解じゃないんですか?」
まだ年端も行かない少女から、大変厳しいツッコミを受けて男はたじろいだ。
後に、これはやっぱり誤解ではなく理解であったらしいということが、マスコミによって暴かれるのだが、それはまた別の話である。
とりあえず、そんな未来を知らない青年は、何やら「これだから女は怖い」などとぶつくさ言っていた。
そのぼやきに泣き声が重なった。
嫌な予感に青年と女優が振り向けば、案の定、例の男がグシグシいって泣き出している。
いつの間にか、遠ざけておいたはずの各種アルコール類と再び仲良くなっていたようだ。
「お前らはいいよな〜〜。そういう見せ場があって〜〜」
これは泣き上戸というより、単にいじけているだけと言った方が正しいようである。正直言って、こういうヤツとはあまり飲みたくないものであろう。
実際には、彼にもそれなりの見せ場があったはずなのだが、いじける酔っ払いにそんなことを説明しても聞く耳を持たないと見えて、誰も慰めようとはしなかった。
おかげで、酔っ払いの愚痴が続く。
「・・・・俺なんか影は薄いくせに、セリフはそこそこ多いし、おまけにそのセリフがアレだし。散々だったんだぞ〜〜。第一、俺の役は確か岐阜の辺りの出身だろう。それがどうして・・・・」
『左近』が『龍馬』の口を抑えた。
「それ以上はやめとけ。あまり天につば吐くようなことは言うものじゃない」
何だか分かるような分からないような青年の言葉である。
いずれにしても、そこに絶好のタイミングで先ほど女優に強制連行された少年が一人で戻ってきた。思いのほか早く、主演女優の暴・・・・じゃない、圧力から解放されたらしい。
「あの二人ももうすぐ戻ってきますよ・・・・って、どうしたんですか?」
いつの間にやら青年に泣きついている大男の姿に、少年が目を見張った。
「気にしなくて良いでしょ」
「ちょっと酔っているだけなの。単にお酒のせいだから放っておけばいいわよ」
大男をなだめるのに大変な青年の変わりに、少女と女優が答えた。
「うーん・・・・」
あまり見ていて気持ちの良いものではないためだろう、答える声は、この少年にしては返事の珍しく歯切れが悪い。
そう思っていると、少年はスススス....と女優の方に近寄って、小声で尋ねた。
「あのー、先輩ってそういう趣味の人じゃないですよね」
「そうねぇ、女の子が苦手なだけで、別に男が好きっていう噂は聞かないけれど、でもわかったものじゃないわね」
一応言っておくと最後の部分は冗談である。しかしながら、それを聞いた少年はそれをきちんと冗談として受け取ったわけではなさそうだ。青ざめてしまった。
一方、問題発言をかました彼女は、何かを見咎めたようだ。
「・・・・思ったより大したことないわね」
ボソッとそんな言葉を呟いた。
主役に引き連れられて、例の美少年があのカッコウで戻ってきたのだ。可哀相に、少年は周り中から囃し立てられていた。無理もないといえば、無理もないことではあるが。
主役の方はなかなか満足そうである。
「意外と違和感ないだろ?」
「確かに」
一同がいっせいに頷いた。
「惜しいよね、これでタイツじゃなかったら本当にほとんど女装には見えないのにね」
「つまり・・・・結局は女装に見えるんですね」
白い肌を青くして、少年が呟いた。
その姿に、もう一人の少年がハッと我に返った。
「先輩っ、男の足になんか見とれないで下さいよ〜っ」
身に覚えのない言いがかりをつけられた男は”何を言い出すんだ、こいつ”という顔をしたが、少年の方は必死である。
「オレは別にそういう偏見とかありませんから、先輩が本気なら仕方ないですっ。
馬に蹴られてってやつは嫌ですから、男同士でも止めたりしませんしっ!!」
でも、フラフラ男の足に見とれるのはやめてください〜〜。
少年はそう続けようとしたのだが、「バカッ」という周囲の慌てたように言葉に、それを遮られた。
しかし、時既に遅し、であったらしい。
その言葉を聞いた女装(ではないかもしれないが)の少年が、どういうわけか突然回れ右して、「うわあぁぁぁ」などと叫びながら全速力で外へ逃げ出してしまった。
「あーあ・・・・」
少女がまずそんな風に嘆息した。
「え? えっ? なんでです。どうして?」
残った方の少年はわけもわからず首をかしげている。
「完全にトラウマになってるわね・・・・」
「だろうな」
「哀れだ〜〜」
それぞれが一通りの感想を述べたところで、主役が締めくくった。
「それにしても、あのカッコのままで出てって大丈夫かな?」
「────」
その場にいた全員が、あの少年に新たなる精神的外傷がつくことを予見した。
哀れなり、蘭丸。
──結局のところ、蘭丸役の少年がそれほど嫌がっていたシーンがどんなものだったのか。
信長と蘭丸のラブシーンだ、などというイヤに邪な説を筆頭に諸説が好き放題に流れたが、それを知る関係者は皆、少年の名誉のために口をつぐんだため、実際のところ正確な答えはわからない。
しかしながら、わずかに洩れ聞こえてくるところによると、信長と蘭丸の野駆けのシーンがあったはずだという。
そのシーンの撮影の際、乗馬経験のなかった少年は馬に徹底的に馬鹿にされた挙句、最後にはボロ(意味がわからない人は調べないでね)の山の上に叩き落されたのだ──という説が、この件に関しては有力である。end
*作者より一言:この物語は当HPで11111HITを踏まれた森郁さまのリクエストに基づいて書かせていただきました。
森郁さま、そして蘭丸ファンの皆様、本当にごめんなさい。